シオドア・スタージョン著 短編集(以下いずれも河出文庫版あり)
「海を失った男」若島 正ら訳(2003年、晶文社)
「不思議のひと触れ」大森 望ら訳(2003年、河出書房新社)
「輝く断片」大森 望ら訳(2005年、河出書房新社)


 人々の「マイノリティさ」「エキセントリックさ」を緻密に描写する。誰もが主人公になり得るという日常が
題材である。そして、誰もが多かれ少なかれ何処か壊れている。読者に、ありえる話だねぇと共感するような隙が
あると、内向や孤独という主人公との共通要因があれば尚更のこと、高いサスペンス性に付け入られる。それゆえ、
スタージョンの著作は読者を選ぶのであろう。壊れている所が皆違うから、好みにも個人差が現れる。私のオキニは:
ちょっと頭の弱い男が見せるひたむきで粘性の高い愛「輝く断片」、
フェティシストの心情をこれまたねっちりと描く「ビアンカの手」、
医者と患者の禁断の愛とミューテーション的副作用「成熟」、
赤ん坊が虐げられていることに子育て経験者は苦笑「取り替え子」、
親の厳しい躾から男の子はどう逃避したか「影よ、影よ、影の国」、
異形の者の向き合う愛欲に下ネタをからめて「ミドリザルとの情事」、
狂気の沙汰は普通の人に訪れる「ニュースの時間です」。
 ほっこりする話「不思議のひと触れ」もあれば、コメディ「裏庭の神様」も、ホラー「もうひとりのシーリア」
もある。クライム小説をジャズで味付けた「マエストロを殺せ」は異色作。紹介した短編集はスペクトルが広いので
多くの読者を満足させたであろう。「トワイライトゾーン」や「世にも奇妙な物語」に似て、不思議系と怖い系と
おちゃらか系を混交した編集も良い。スタージョンはトワイライトゾーンのライターだったことがあるそうだ。
 原文が散文詩的なのか読み取りにくい箇所もあり、腰を据えて読まねばならず、オチの分かりにくい作品もある。
読後の印象は決して強烈ではない。でも、なぜだか dig りたくなる作風なのである。群像劇「[ウィジェット]と
[ワジェット]とボフ」を表題作にもつ短編集(2007年)も読み応えはあったけども、表記の3冊には及ばなかった。




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