「ジャズ放浪記」大野雄二著(2018)


柴崎に「さくらんぼ」というライブ喫茶があって、とても狭くてミュージシャンと近密、話もできる。ここには彼の
トリオがちょくちょく来る。大野雄二+井上陽介+江藤良人で以前に楽しませてもらった。しっとりleft alone を
聴いていると、厨房からグラスがパリ〜ン、失礼シマシタ〜。。。面白い所なんです。
 さて、日常会話では、話が発散する人もいれば、粘着質の人もいる。口癖の多い人もいれば、突拍子もないことを
言い出す人もいる。短くても気の効いたスピーチがあれば、長いだけで結局何言いたいのか解らなかったというのも
ある。聞き上手は話し上手ともいう。なんだ、ジャズと同じではないか。テーマと速さと始めと終わりを概ね約束
したらアドリブで講演や授業を組み立てるのと、思考回路的には近いものがある(かもしれない)。ベシャリには
演奏ほど技術は必要ない点が決定的に違うけども。とにかく、楽器で会話のできる方たちが羨ましい。
 ミュージシャンには、話しても書いても面白い方が多いように思う。それはエンタメ業従事者の獲得形質の
表れであろう。この本は口述筆記、座談会記録が主なのだが、著者の言いたいことは伝わっている。
 バリバリのジャズなのになぜ「ルパン三世」をいつも入れてくるのか。「ツカミ」と「お約束」は外せないからだ
という。聴衆やクライアントの期待に応えねばというサービス精神が旺盛なのである。なおかつ一線のジャズマンで
成功しているのは謎である。実際にジャズ伝道師の第一人者であることは論を待たない。すべてに迎合するのでは
なく、妥協しない芯も必要である。例えばソロは1コーラスだけだぞと言えばメンバーの集中力高まる。水準が
守られる。CMや映画・劇伴作家として一角の時代を作れたのにも理由がある。ファーストコールに恥じない技能を
を持つことであり、本人曰く研究熱心だからである。しかしそれを書くだけなのは謙遜であろう。行間からは大野氏の
コミュと気配りの良さが見え隠れして、そこが断然面白い。サービス精神は人柄から溢れてきたものに違いない。




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