「京都大とノーベル賞 本庶佑と伝説の研究室」廣瀬一隆著(2019)


 受賞会見で、本庶先生は研究費の投入のあり方について「あまり応用をやるんではなくて(基礎研究に)
ばらまくべきだと思います」と発言された。小野薬品から市販薬を出されているにもかかわらず、だ。

 有識者たちが折に触れて、昨今の理工系のおかれた危機感を口にする。しかし行政は耳を貸さない。研究
予算を傾斜させすぎでは?と理工系大学の現場ではよく聞かれる。霞が関は理工系の内容がわからないから
ポピュリズムに頼るのであろう。つまり、有名なところに予算投下しておけば、まず叩かれることはないかと。
ところで、理研でもiPS研究所でも、研究者エリート集団で論文不正問題が再三発覚する。中堅〜下っ端
研究者の研究力や倫理が低下していることが露呈している。トップを引き上げるという政策の一部は肯定
してよいが、残念なことにバランスが悪い。分厚い平均層の地盤沈下を見捨ててきた姿勢が問題だ。
 日本は鉄も石油も採れないし、食料自給率は低い。加工貿易で生計を立てる。この事情はかの大国とは
根本から違う。なのに大国の真似をすればよいと誤解している輩が多い。津々浦々の製造業は大企業から
町工場まで数も種類も多い。下請け孫請けの伝統もあり、下町ロケットが美談になる。徒弟制度にも長所が
あった。そんな工場長も工員もノーベル賞級の逸材ということもなく(失礼!)、日本の産業構造の主役を
担ってきた。しかしその水準の高さは誇りであった。誇るべき彼らの特質を、なぜ伸ばしてやれないのか。
 この20年間で大学の研究予算は減、人件費も年1%カットされ、教授は伝票事務処理もやる。挙句に
論文数では中国はおろか、英や独にも抜かれた。前者は経済力の差と見て良いが、後者は政策に責がある。
金も時間もなく卒研生にあまり構ってやれなかったという大学の先生が(特に歪みの際立つ旧二期校級には)
もう現れている。技能未修得の大卒や院卒が世に出ている。技術立国の落日はもう秒読み段階だ。

 冒頭の本庶発言が効いたのか、2018-2019は文科省科研費総額を100億円アップしたそうだ。桁を読み
間違えたかと思った。空自のF-35たった1機分にもならない。まだまだ日本は理工教育への投資は渋チンだ。
そしてまた低い総額とともに下手な配分も罪深い。今すぐ基盤B,Cを研究基盤経費として全国へばら撒け。



  • ブラウザの「戻る」で戻ってください。