「みずうみ」川端康成著(1955)


 川端は美しい日本の自然の描写、田舎風景の表現が得意だという。描かれた情景は確かに美しい。しかし
風景描写だけでは物語を起こせない。実を言うと、川端は美しい女体の描写の方がもっと得意にみえる*
「温泉宿」も「雪国」も女性の肉感の描写がいい。エロいけどグロくない。幾つかの作品に渉って処女フェチが
見え隠れする。昭和の大文豪を捕まえてこう言うのも何だが、この作者はスケベオヤジだ*。(注* 個人の見解です)
 川端作品では異端かもしれない次の3篇を勧めます:「眠れる美女」「片腕」「みずうみ」
「みずうみ」は、実は未完だという。クライマックスっぽい終章になっているので、未完成度は感じない。
美しい女性を見ると追ってしまう主人公、それにはコンプレックスもトラウマもあり、回想をおり混ぜながら
エピソードを紡ぐ。「一度女の後をつけたことが銀平にまた女の後をつけさせる」「銀平が女の後をつけるように
嘘が銀平の後をつけてくる」。じわじわと怖い。。。くれぐれも小説の中だけに留めてもらいたい。昨今だと
現実の事件の方がもっと恐ろしい。平成・令和の小説なら追われた女性を主人公にする。女目線の市場相手の方が
断然仕事になるからね。だから、川端の(時代背景の助けもあるが)追う側の視点には逆に新鮮味が感じられる。
 ところで川端作品は国語の教科書にはあまり採用されていない。もーしょうがないなー、スケベなんだからぁ。
川端のお行儀の悪い一面(素顔?本質?)を知るために、文科省が決して推薦しない上述3篇をぜひどうぞ。



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