映画評:「激突!」(Duel) S.スピルバーグ監督(1971、ユニバーサル)


 筒井康隆「走る取的」(1974頃)が着想を得たというこの映画は、スピルバーグの監督デビュー作だそうだ。
しかし、テレビ映画だし監督は新人だし、おそらく低予算だったであろう。【以下ネタバレ注意】
 サラリーマンがハイウェイでタンクローリーを追い抜く。昨今流行の様にローリーが煽ってくる。ローリーの
フロントグリルがミラー越しに大きくなる。ディーゼルエンジンは強い。命からがらドライブインに逃げ込む。
ふと見るとそのローリーも停車しているではないか!ドライバーは誰だ?疑心暗鬼で人違いの喧嘩を起こす。
インを出て、踏切で貨物列車の通過を待っている。そこへ先のローリーが追突してきてグリグリと押してくる。
ローリーのドライバーの顔が見えない。見えないところが怖い。車体を擬人化することによって怖さが倍増する。
 本当に怖い映画は心理サスペンス劇に多い。作り物にはそれとしての正体がわかっているから、髪の長い女が
井戸から出てこようがテレビから出てこようが全然怖くない。「メイクよくできてるねぇ」と感心はするけども。
 スピルバーグはこの後「ジョーズ」(1975)で第一線に躍り出る。サメがなかなか顔を見せないというのは
彼の得意な演出法であった...と書けば彼の作風の賛辞に聞こえるけども、裏話としては、予算不足で
サメの張りぼてが完成せぬまま撮影が始まってしまい、仕方なしに撮ったのがサメ目線のシーンだったという。
 災いを転じて福に持って行く能力は、さすがと言えましょう。



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