「鴻上尚史のほがらか人生相談」鴻上尚史著(2019)


 どうでもいい悩みから深い悩みまで、優しく明るく楽しく、かつ具体的に答えてくれる。人生相談を第三者が
読んだところで所詮野次馬に過ぎないわけだが、汎用な処方箋は、読者にもきっといつか何かの役に立つ。
 「娘に普通の服を着させるべきか」問題は、鴻上は待ってましたとばかりに持論を展開し、軽い相談に対して長い
回答を寄せる。「同調圧力」や「世間」の彼なりの定義と解釈は、我田引水か、自分の著作のセールスかと皮肉り
たくもなる。でも、こういう話の持って行き方は決して嫌いではないです(私と似た匂いを感じるから。あはは)。
 peer pressure(同僚・同調圧力)は会議の席上でよく見られる「空気支配」のことである。少数意見者を黙らせる
無言の圧力である。「12人の怒れる男」のヘンリー・フォンダがなぜあんなにもかっこいいのか?正義感に加えて
会議室をおおう空気という魔物を退けたところが清々しいのだ。空気を読むのも時には必要だが、必要以上に強いのは
いけない。忖度も本来悪い意味の言葉ではないけども、不埒な輩が過度に使うと悪い方に進む。
 同調圧力は日本では横並び主義に起因するときに特に強い。「普通の服」問題の主犯は横並び主義の方だと思う。
「普通の」って何よ?みんなが着る服のことさ。「みんな」って誰よ?自分以外の皆だよ。こんな禅問答のような
自問自答をした貴方、横並び主義に完浴してます。この思考回路から抜け出られないことこそが日本人の宿痾なのだ。
 こんな小噺聞いたことありますか。乗客が船から落ちるのを見た。助けたいが自分は泳げない。近くの男性に
助けを求める。彼がアメリカ人なら「ここで飛び込んだらあなたはヒーローになれます」と言えばすぐに飛び込む。
イギリス人なら「ここで飛び込んだら紳士と呼ばれます」。イタリア人なら「ここで飛び込めば女性にモテます」。
ドイツ人なら「ここで飛び込むのはルールです」。日本人には「みんな飛び込んでますよ」。


 横並び主義はあまり褒められないが、これは根底にある協調性が歪んだ形で発動したものであろう。協調性は
褒められる。ロンドン五輪水泳やリオ五輪陸上のリレー種目でメダルを獲れたことは、協調性が武器になるという
証である。文化やDNAには、その土地で進化をとげてきた合理的な理由が潜む。日本人が協調性に優れるのは、地震や
台風という災害の多い風土のおかげだと言われる。特に辛い時に威力を発揮する団結や絆の精神性は、他国が羨む
誇るべき長所である。covid-19との闘いに勝利した後、我が国が世界の復興をリードできるものと信じています。




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