「殺人都市川崎」浦賀和宏著(2020)


 私も川崎市民28年目。この本、川崎市の自虐ネタ炸裂という評判なので取り上げてみた。経験的には、
自虐を語るとき、密かに誇りに思う気持ちをカモフラージュしていることが多い。果たして?
 本作では映画館もショッピングセンターも実名で登場する。イタリアっぽく見せかけたチッタデラだとか、
背伸びしたラゾーナだとか、妙にハロウィンが好きだとか、武蔵小杉は川崎じゃないなどと、厳しくいじる。
 川崎大師様のいらっしゃる平間寺は確かに結界だ。この本はオカルトホラーか、と読み進めるうちに、
不必要に体を切断するスプラッタも容赦なくエスカレート。その一方で、「おやつはいつもくず餅でした」
などと、分かる人には分かる会話も出てくる。割り切って楽しんだらよいかと思う。【以下ネタバレ注意】
 例えば、不可知や不条理な世界感、ちゃぶ台ひっくり返し、誇大妄想、夢オチといった結末には、真面目に
読んで損したぜ、と感じる読者も多いだろう。本作が遺作とのことで、推敲不足だったのかもしれない。
ガキの頃は寺社境内は恰好の遊び場となり、どの社の表も裏も床下もまるで野良猫のように全て知り尽くす。
気付けるものは大概気付くはず。だから、世代が違うのか幼少体験が違うのか、このオチは説得力がなかった。
 いやいや、平間寺は本当にハリボテかも。初詣のときの「御利益は御賽銭箱の真ん中も端っこも同じです」
という俗っぽい拡声器の案内を思い出した。ハリボテなら御利益は元々期待できないね。おっとバチが当たる。

浦賀氏の名誉のために追記:代表作「彼女は存在しない」(2001)も読んでみた。犯人探しとしては途中で
わかってしまうのだけれども、題目からして二人が同一人物なのは間違いない。後者に関わる作者のミスリードは
なかなか技巧的であった。心情の掴みにくいところは登場人物の狂気の為せる業として大目に見ましょう。



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