「ルポ川崎」磯部涼著(2016,2021)


 一億総「中の上」と言われた頃が懐かしい。この本は現代の我が国の格差社会の縮図を垣間見せる。
取材当時に大きく吹き荒れていたヘイトスピーチ勢とそのカウンター活動との鍔迫り合いのルポも読み応えが
ある。著者が音楽ライター出身であるためか、著者の知己たるラッパー達のプロモ的な色彩を帯びたのは
仕方ない。一方、スケボー猛者も川崎には多いらしい。スケボーがオリンピック種目にも採用される昨今、
少なくとも音楽とスポーツは貧富や出自の差別が少ないように見える。これらが格差社会を擾乱するムーブ
メントになることを信じてやまない。貧困や不平等をなくそう、皆に健康や質の高い教育を提供しよう等は
SDGsスローガンだが、国内の問題を解決できない為政者が、国際社会で解決できるとは到底思えないけどね。
 私も川崎市民28年目。当初住み着いたのは北部辺境多摩区でしかも流入者。本当の川崎は大師線と
鶴見線に挟まれたデルタ地帯であって、今は高津区在住で少し近づいたとはいえ「川崎」は奥が深い。
 東京下町に在りしときは、同じ都内であっても山手線沿線は遠く、むしろ千葉の方が近かった(個人差
あります)。同様に下町の川崎区・幸区民は川崎山の手側よりも横浜鶴見区あたりの方が近いだろう。
族の縄張り意識では南北川崎の境界は中原区/高津区あたりだそうだ。ゴジラに武蔵小杉のタワマンを攻撃
させたのは象徴的だった。そこの居住者はよそ者が多いから、あの映像を見ても川崎市民は胸を痛めない。
もし本当の川崎を破壊してたら、ヘイトスピーチ勢が荒れるやら、チネチッタが東宝をボイコットするやら…
東宝さん、恨まれない上手い選択をしましたね。




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