「11の物語」パトリシア・ハイスミス著(1970;小倉多加志訳1990)


「世にも奇妙な物語」が好きな方向きの短編集であった。虚無感に襲われたい方にも向いている。人を
あっさり殺すところ(短編だから)、サスペンス物とはちょっと違う味わいがある。【以下2行ネタバレ注意】
かたつむりに押しつぶされたり追われたり食われたりと、夢にうなされそうな話があるかと思えば、親子や
友人間の確執と復讐劇もあり、狂気のベビーシッターに出会ったり、ばけ猫に憑かれたり、失恋したり。。。
11編のどれも良かった。
 映画「太陽がいっぱい」(ルネ・クレマン監督、1960)の原作者ということでハイスミスに興味があった。
これはアラン・ドロンの代表作であり、二枚目俳優と海とヨットと大変絵になる構図にして、衝撃的な結末。
1999年作品でマット・デイモン主演「リプリー」としてリメイクされたけども、デイモンの印象は
あまり残らなかった。というか、作品としても「太陽がいっぱい」に負けた。助演のジュード・ロウは
GATTACA(1997)で好印象だったところ、ここでもやっぱりよかったのがせめてもの救い。
 「11の物語」もそうであったが、ハイスミスの目指すものは正統派不条理であろう。あのかたつむりの
描写が緻密であるがために一層クライマックスの説得力が増す。クライム物では勧善懲悪を目指さない
作風のようで、悪人も普通に暮らす。これが読後に独特のサスペンス感を醸し出すように思われる。



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