「Some Other Time」白崎彩子 (2013)



白崎彩子さん、2021年11月29日、ガンのため亡くなった。没年52歳。素晴らしい方なのに、早すぎる。
彼女のリーダートリオを柴崎の「さくらんぼ」で聴いたのはもう10年くらい前になる。確か安ヶ川大樹氏(b)、
奥平真吾氏(ds)だったと思う。かつて天才少女ピアニストと天才少年ドラマーと名を馳せた二人の競演だった。
小柄ながら腕っ節の強い白崎さん、音圧の強いバップでよくスウィングする彼女の真骨頂というべきピアノを
を堪能した。そのテクはもういまさら語る必要はないものだ。自ら yeah!と合いの手を入れて非常に楽しく
活き活きした演奏だった。お客さんを飽きさせることなく、ボサノバ曲やら、日本の曲やら、ヤンソンのHopeを
入れて、あるときには唄心あり(歌わないけど)、またあるときにはこの上もなくしっとりとした演奏には、
あたかもスポーツカーで街乗りするような余力と円熟味が感じられた。
インターミッションでたまたま私たち聴衆のいるのテーブルのところに掛けられて(さくらんぼは狭いのだ)、
世間話かたがた、お子さんの写真を見せながら本国(NY)に残してきた心配を、子煩悩ぶりを織り交ぜて
お話しいただいた。旦那の写真は持ち歩かないんですか?と茶々を入れたら慌てて旦那の方も見せてくれた。
白崎さんは、とても気さくで知的でチャーミングな方だった。
来日ついでの収録と思うが、児山紀芳氏(彼も鬼籍に入られた)がナビを務めるネットラジオの番組で、中学生の
頃の白崎さんの演奏の録音テープがオンエアされた。これは初めて聴いたのだけど、やはり凄かった。
彼女のブログは2021年4月24日、ライブの告知で途絶えている。健康状態のことは一切伝えられていなかった。
そのかわり youtube への投稿が増えていた。covid-19のためにミュージシャンが演奏をネットに上げる
ことは珍しいことではないけども、彼女の場合には、生への無念がにじみ出ているのだ。
いま一度白崎彩子さんの演奏を聴きたい。しかしもうそれは叶わない。



  • ブラウザの「戻る」で戻ってください。