「我輩はゲコである」浅田次郎(Skyward(JAL)、2022年11月)
我輩(石田)もゲコである。注射のときにアルコール綿で皮膚を消毒するけども、我輩の場合、綿を引いた
跡に沿って炎症を起こす。図らずもこんなパッチテストが示すように、原因は遺伝子にあるものと推察される。
最近の研究によると、血中のアセトアルデヒド濃度が高まると感染症耐性が向上する。即ち、適者生存のため
進化したヒトとしてゲコが生まれたという。さよう、我々は酒豪のような原始人とは違うんだよ。わっはっは。
負け惜しみはたいがいにしまして、さて、浅田氏の文章は楽しい。小説を読むためには無駄情報であるけども、
一連のエッセイを読んで初めて彼がゲコであり、ハゲでもあるということを知った(後者は著者近影から確認)。
表記は月刊連載物の一篇。下戸であることの悲哀、無念、立腹、ジョウゴへの羨望、身の上の理不尽さを、
筆震えながらも、この短いエッセイにまとめたのはさすがだ。「三三九度もあろうことか水盃」だったそうで
大笑い。そしてゲコな読者は同病を相憐れむ。彼は作家であるから酒席の場面も描写する。「常に素面のまま
百人百様の酔っ払いを観察して」生業を助けたという。ゲコはゲコなりに、したたかなゲコでありたい。
浅田氏のユーモア満載のエッセイはJAL機内誌で読めるが、入手が難しい。単行本/文庫なら「つばさよ
つばさ」(2009)から「見果てぬ花」(2020)まで既刊6巻でお楽しみください。「かわいい自分には旅をさせよ」
(2013)というエッセイ集には「下戸の福音」という章もあったけども、それよりも「〇〇の不在」の章が首肯
どころ多くて面白かった。随筆家=論客の面目躍如。もちろん現代屈指の語部たる氏の小説も大いにお薦めです。
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