「壬生義士伝」(上・下)浅田次郎著 (2002) 文春文庫
先日、盛岡出身者2名がおられた食事会に同席した。そこで出た話題によれば、NYタイムズが
選ぶ行きたい都市の第2位が盛岡だそうだ(第1位はロンドン)
(2023年1月NYT記事;
なぜ盛岡?)。
続いてお国自慢が始まるかと思いきや、なかなか盛り上がらない。「名物はわんこそばでしょ」
「それから南部せんべいね」。。。どうやら3つ目に思い当たらないようだった。仕方なく「かもめの
たまごは?」と横槍を入れたら、「それは三陸です、盛岡とは違う」とユニゾンで却下。村意識が
強いのは、盛岡は盛岡藩(南部藩)、三陸は八戸藩の領地であったためだろうか。よそ者にはわからない。
「壬生義士伝」は、伝聞の形式をとりながら、一人の南部侍の生き様を炙り出すという趣向である。
剣術の描写はリアル。貧乏の描写は話の展開上必要だがちょっとクセがある。随所に「仁義」(又は単に
「義」)が見え隠れしており、日本人の失いつつある儒教的倫理感を思い出せたのはよかった。仁義とは
ヤクザが自己紹介のときに切るアレではなくて、本来の良い意味、道徳・義理・正しい人の道のこと。
浅田の仁義観は、「壬生義士伝」のような人情話においても、「プリズンホテル」のようなコメディに
おいても一貫している。浅田は現代の仁義の伝道師と呼んでよかろう。「壬生義士伝」で描かれる日本の
原風景は美しく素晴らしい。そして「仁義」は日本人の精神の原風景として描かれており、これも美しい。
ふるさと奥州の岩手山と姫神山と北上川と中津川と盛岡城。あなたもきっと盛岡を訪れたくなります。
ブラウザの「戻る」で戻ってください。