コウガイビル

 

 気温も湿度も高い深夜1時ごろ、ジョギングしていたときのこと。走り慣れたコースで、裏山の神明神社の石段を駆け下りて、アジサイの咲く角をまがろうとしたとき、べチャッと水溜りを右足で踏んだ。直後に左足の脛を一周する形で巻きついてきたものがあった。とりあえず街灯の下まで走ってからよくみた。一見してゴム紐のような、うすい縦縞のある黄土色の物体だった。長さ30cm以上はある。破棄された麺類(例えば吐瀉物)にも見え、脚を激しく振ってみたが、はなれない。脛毛と汗のせいであろうという判断はまるで甘かった。手ではがそうとして粘液質にくるまれていることがわかり、虫か小動物由来であろうと即座に了解できるものであった。粘液はヌルヌルというよりネバネバに近く、とにかく気味の悪いものをはらいのけ、手に付いた粘液も気色わるいので地面になすりつけて、いそいで帰宅してシャワーを浴びた。

 この虫が、ヒル類ではないかという感を頼りにネット上で検索して、ほどなくして正体をつかむことができた。コウガイビルというプラナリアのなかまで、蛭ではない。

 

 

 コウガイビル友の会(http://www.st.rim.or.jp/~anmitsu/kgb/index.html)は情報満載である。この成虫は1mを超えるという。その大きさから外来種かとも思ったが、名前の由来は髪飾りの笄(こうがい)に由来するらしく、我が国に古くからいる。郊外にいる蛭ではない。21歳の乙女が私と似た体験をしている手記がある。トラウマになっていないことを祈りたい。

 

 

 プラナリアの再生能力は抜群だから(http://musi.s6.xrea.com/nikki7.htm)、私が引きちぎって捨てた数だけ増殖してしまったかもしれない。プラナリアの生物系統図(http://www.t3.rim.or.jp/~hylas/planaria/7.html)によると、寄生虫のいくつかに系統的には近いようだ。皿に盛って写真をとるとは(http://www.asahi-net.or.jp/~za9k-hnmr/htm/kougai.htm)、常人には理解しがたい。食事の前には見ないほうがよろしいかと。麺類を召し上がることができなくなる。空中浮遊(http://home.n02.itscom.net/wad/u/uta2.htm)もするという!空を飛べるのだから人の足に巻きついたとしてもまったく不思議はないわけだ。なかなかキッチュなページが多いのは、コウガイビルに魅せられた人が多いことを物語っている。よく見たらば、結構キモカワイイのである。

 

 

 その後、気になって探すようにしていたら、幸いにも朝の通勤時に同じ場所で一度見かけることができ、再会をお互いに喜んだ。前後に伸縮しながらゆっくり前進する。観察すると、頭部のふくらみれはプラナリア的であるが、実際にはさらに直角のように突き出した(ハンマーヘッドのよう)特徴的な顔をもっている。Wikipedia には、腹から消化液を出して捕食するとの記載がある。だから私の足に巻きついたのは、ひょっとすると私を食べようと挑んできたのかもしれず、だとしたら、コウガイビル界のドンキホーテというべき存在であったのかも知れない。元気でナ、と言って別れた。

 

20066月記す。