「考察 立体周期律表」木村信夫著(2004)
周期律の表記法には何種類か知られている。中でも立体らせん型は秀逸で、これを使った
筆立て『エレメンタッチ』は京大生協を震源として静かなブームとなっている(調べてみたら、
らせん周期律は De Chancourtois (1862) により提案されていて、Mendeleev より歴史が古い)。
周期律を理解することは大学1年の化学の授業の主眼の一つである。主量子殻の収容電子数
2,8,18... が数学的結論として説明され、この magic number は、決して魔法的でないことを
教わる。学生の中には自然の美しさに感嘆する者もいて、授業していて楽しい。
さて、この本、新しい箱形周期表を提案しているということなので、ちょと読んでみた。
sとpを充填する8原子を立方体の角に、dを充填する10原子を対心を含めた立方体の角に
配置する。箱を積み木のように重ねたり、ずらしたりする。このアイディア自体は悪くない。
さて、筆者には着想に至った経緯を論理的に説明していただけたら良かったのだが、残念
ながらその文章は散文詩的なものであった。魔法数8に対して、音階律に関連づけてみたり
(半音を含めたら12だけど)、方位学やら陰陽道やら風水やらとも関係する(当たるも八卦)。
アミノ酸を箱型配置するとコドンを説明できる。さらに、太陽を中心に惑星系も配置できる
(冥王星を除いたのは先見の明があったか)。本書の出版は2004年であるが、現代における
日本の化学はいかなる水準なのかという問題を提起するであろう。その業績を讃えて、
私は本書を『と学会』へ推薦したい。
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