「美しくなければならない」グレアム・ファーメロ編著(2002)
『スーパーエッシャー展』に行った。多数の習作が展示され、エッシャー絵をCGで動かす
企画もあったりで、なかなか楽しめた。ここに三回軸があるぞ、ここに映進面があるぞという、
日頃の癖で見てしまった。結晶学との関連性はよく指摘される。さて、彼の芸術には到底及ばない
が、学部生に我々の研究を紹介するときは、対称性の高い結晶の構造図を見せることにしている。
「綺麗でしょ!」と言って素人の気を引こうとする見え透いた魂胆なのである。玄人なら眉を
しかめるだろう。美は主観である、科学は主観を排する、故に科学には美は不要だ、と。
でも安心。アインシュタインなら草葉の陰から褒めて下さる。ひとの研究に対して賛辞を贈るとき、
「的確だ」とか「間違いない」ではなく「美しい」と語ったという。
この本が取り扱うのは、方程式の美である。20世紀の物理学における方程式は独特の地位を
築いており、E = hν などは確かに美しい。ハイゼンベルグとシュレディンガーの確執など、
人間模様が描かれ、時代の背景と研究論理がよくわかる。『化学構造論』の副読本にどうぞ。
いろいろな分野のオムニバス形式のエッセイからなっており、カオスのロジスティック写像、
情報理論のシャノン方程式、重力理論の宇宙定数などもそれなりに楽しめる。フロンガスの反応
(化学反応式も広義の方程式だ)については、小生、お恥ずかしながら知っているようで知らない
ことが多かった。この反応式が美しく見えるかどうかはさておいて。
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