「就活のバカヤロー」大沢仁、石渡嶺司著、光文社新書(2008)


 就活オープンは18ヶ月前だと煽ってはばからない、就職情報会社がある。会社は2年分重畳した
不自然な採用活動が恒常化し、無駄に希薄な作業を強いられる。大学生は最も伸び盛りの時期に1年
近くも大学を不在にすることすらある。学生は何十社と受験して、会社は何回も選考を行う(ある
会社に聞いたら採択率1%だそうだ)。せっかく大学院に進学したのに正味の学究活動は何ヶ月だった
ろうか。勉強する時間が削られて「最近の新入社員は学力が低くて使えない」などと言われる。
 3年3割といわれる離職率は、会社にとっても大きな問題であり、会社は「会社説明会」を繰り返す
ことで歯止めをかけるのに躍起である(が効果は出ていない)。就活の web 利用において、クリック
一つでエントリー取消しという安易さが就職の軽薄感を招いたのではなかったか。おまけに転職は
簡単だよと煽って離職に拍車をかけ、そして再就職が成功した少数の例だけを広告に使って、他を隠す。
 学生の学問を受ける権利を蹂躙し、卒研生や院生を路頭に迷わせて大学の研究レベルを低下させたのは
誰か。企業に莫大な逸失利益をもたらしたのは誰か。フリーターやカフェ難民の増加に加担したのは
誰か。GNP を落とし、国力を低下させたのは誰か。もう答えはわかっているはずである。
 リクルート社をはじめとする(本書のいう)「マッチポンプ」企業は、就職産業においては企業広告が
収入源である。出版社は自社とその出版物のスポンサーとなっている企業の悪口は書けない。著者らは
せっかく拳を振り上げたのに、(私が勘ぐるには、編集長やら出版社から赤ペンが入ったか)指弾が
甘い。就活の長期化に関わる諸問題をマスコミが取り上げないのはなぜか。マスコミは、採用活動を早く
から行う業界であり、自分の悪口は書かないのだ。自社を庇いリクルート社を庇うなら、両者は同罪だ。
 今年度は「採用選考活動正常化に向けての要望と宣言」が動き出す歴史的な年ではないかと私は
考えている。景気の悪化により採用計画が遅れて、仕方なく同期した企業も多かったかもしれないが、
結果的にはそれでもよい。とにかく就活が1年を超えることが正しい姿なわけがない。就職情報が
商品になることは認める。しかし、見えない罪を犯し続けるのは如何なものか。正義のある商売を望む。



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