「大空のサムライ」坂井三郎著(1953、1972)


 言わずと知れた世界最強の零戦部隊。その撃墜王の自伝である。映画にもなっているとのことで
この本とにかく面白い。戦争賛美とか反戦とかいう以前に、第一に青春記としての爽やかさがある。
第二に、命がけの仕事をした男の話は、仕事師の先輩として傾聴に値する。
 零戦乗りはいつも進駐の最前線で戦う。坂井は自慢の視力で1万m以上先の敵機を見出す。僚機を
誘導するために隊列の先頭に出る。空戦とあらば真っ先に切り込む。最も危険な位置にいたに違い
ない。少しでも軽量にするために落下傘は持たないのだという。負けが死を意味するドッグファイトから
全戦全勝で帰還する。当時の英米豪軍は、零戦隊が来たというだけで戦意喪失したそうだ。
 しかし乗っているのは生身の人間である。僚友を亡くせば泣く(実録であるだけに読む方も打たれる)。
敵地上空で曲芸を見せる茶目っ気もある。文筆の才もある。体は華奢な方なのだそうだ。では、どのよう
にしたら超人的境地にたどり着くことができるのか。
 当時の三菱・中島の技術力は世界最高だった。確かに工業技術も重要だが、戦闘機乗りの精神も
重要である。「あとがき」も残さずよく読むべし。昨今の教育現場では精神的disciplineが軽視されている
のが残念だ。現代っ子の皆さん、根性、不屈、辛抱、忍耐、この言葉を忘れかけてはいませんか。
今風のこぎれいな言葉で精神修練と自己管理とも言うが、言い換えても中身は変わらない。



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