「アルケミスト〜夢を旅した少年」パウロ・コエーリョ著/山川紘矢・山川亜希子訳(1994)


 アルケミスト(錬金術師)というのは、ケミスト(化学者)の語源でもあるから、それが
気になって本書を手に取ってみた。錬金術師は魔術師か詐欺師のように描写される残念な
ケースが多い。本書では賢人もしくは聖職者に近い存在に位置づけられている。賢人ね。
それだったら、アルケミストの血を引く者として悪い気はしない。読んでよかった。
 少年が旅の過程で成長していく宝探しの物語、クエスト物である。少年は見えざる手
(要するに神)に導かれる。超自然的な現象が起こる。この点でこの物語はファンタジー
である。そしてまた、賢人のセリフは啓示的であり、含蓄があり、時代を超えた真理が散り
ばめられている。だからこの本は自己啓発書として紹介されることも多く、その方面から
一時期もてはやされたことがあった。「夢をかなえるゾウ」よりはずっと品格がある。
 スペインからジブラルタルを渡りサハラを横断してピラミッドを目指す。アルケミストが
師匠である。仲間にイギリス人やラクダ使いがいる。一見これは三蔵法師のお供をして
長安から天竺を目指す孫悟空に似てなくもない。遠い旅路であることも似てる。見えざる
手に監視された少年は、お釈迦様の掌で踊らされていたという姿にも重なる。少年も悟空も
旅を通して一人前になった。宗教観にも人生観にも洋の東西を問わず通ずるものがある。



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