「カリコリせんとや生まれけむ」会田誠著(2010)


 ミュージシャンにいい文章が書ける人がいることは知っていたが、絵描きはどうか?表紙に
惹かれて手にした「ジェローム神父」(マルキ・ド・サド著、澁澤龍彦訳(2003))へ全面的に
挿絵を提供した画家が、会田である。果たして、彼のエッセイ実に面白い。オーディエンスを
喜ばせることを理解しているのだと思う。ヘタな作品や演奏ではブーイングを受けるという職業と
無縁でないだろう。旅の感想を書けないといいながら、観察眼は鋭く、描写も精緻であって、
それは謙遜であることがわかる。あの非日常的妄想的な女の子画を描く作家が、まともな人間で
あると知って安心した。その安堵のためにも、本書は読む価値がある。
 私生活を語り、思春期を省みながら、著者のサブカルの原点が明らかになる。アンチアカデミア・
反主流・マイノリティ擁護。これらはアーチストとして重要な資質だ。現代芸術家の中で売れっ子
であるためには、ある種の感性がクレージーであることも必要である。その点で彼には天性の
才能がある(褒めてます)。作品の写真が少しだけ載っている。鑑賞者にとってこれが異常に
感じられるとしたら、単に主観の問題だ。黒髪ストレートの女の子は私も好きだ。だからと言って
私はクレージーではないし、同様に著者の本性もそうではない(と思う)。
 子を育てる親の視線、教育現場に対する視線、大学講師の視線には一般ピープルたる私にも
首肯できる点が多い。エキセントリックな内容を期待したとしたら、いい意味の期待外れとなる。



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