「犬語の話し方」スタンレー・コレン著、木村博江訳(2000)


 犬は声帯を持たないが、発声できなくても言語は成立する。犬は単語を理解するだけではなく、
前後の脈絡や語順にも意味を見い出す。しかも語彙も数百に達し、人の2,3歳並みの会話が可能だ
という(確かに、昔実家にいた駄犬ですら、家族の名前、食べ物、散歩、お手、お座り、など
少なくとも数十の語を理解していた)。宮部みゆきの小説に、犬は人の言うことを完全に理解できる、
ただ話せないだけ、という設定のものがあった。まさかね。。。外国人と会話するときヒアリングが
できれば充分で、話すのは自国語でよい。だから犬に話しかけるときも人語でよい。そして本書には
犬語を「聞く」のに便利な小辞典がもれなく付いてきます! 意志の疎通はこれで万全。
 ボディランゲージが重要で(ここがバウリンガルより優れたところ)、単純に見える尻尾の振り方も
実は意外に難しい。耳の立ち方にも注目されたい。犬に襲われたらあくびするべし。相手の威嚇を
そらしたいという意思表示である。犬と仲良くしようとして肩を組んではいけない。噛まれるよ。
 犬と対話する技術は、人間関係にも適用できる。筋肉には不随意筋と随意筋があるが、顔面の
下半分に随意筋が多いのは、話すための進化の結果である。人は口元で微笑むことができる。しかし
本当に悲しいときや嬉しいとき、目の周辺の緊張や弛緩は隠せない。俳優や諜報部員の志望者なら、
どんな訓練を積むべきかがわかるだろう。一方、犬の笑顔には偽りはないはず。だから心安らぐ。
 知覚/認知心理学は緻密な行動分析を土台にする。この本は「犬の心を読む」という心理学上の
挑戦である。S・コレンは心理学教授で犬訓練士の資格者でもある。




  • ブラウザの「戻る」で戻ってください。