♪ CD評 最近の5枚 和ジャズは近頃元気がいいです ♪
聴いてみましょう! 耳からウロコが落ちます!
Roots / Indigo Jam Unit(Basis Records、2010.12発売)
#1表題曲がYouTubeに上がっているので聞くべし。ベースがかっこいい。アコースティックの
響きがいい。p+b+ツインdr というリズム重視変則カルテットである。リフレインが陶酔感を
もたらす。プログレやヘビメタにも通ずるもので、その世代もどうぞ御一聴下さい。2コーラスの
あとテーマにperc がかぶさってきて、後半もうひと暴れするわけだが、コードを崩すのが
ちょと派手になる。アルバム全体として、ラテンあり、美メロあり、で完成度は高い。
p/b/drが対等に主張していて、現代のinterplayのあり方と言える。長尺ものの演奏がどう
なるかが気になる。きっとライブでは楽しい演奏を繰り広げるに違いない。
ジャズバンドは商業的に成功しないのが常であったが、IJU はこの10年のクラブジャズの
ブームのおかげで飯を食っていけるようになった(このバンドは10年選手だけど)。好き嫌いは
別にして、現代日本のジャズの一つの方向性を担うこのバンドを避けて通ることはできない。
Urban Clutter / 福井亜実トリオ(Anturtle Analog Recordings、2010.8)
もしiTunesをお使いなら曲順を逆にしよう。#10トリの表題曲がこのピアニストの個性で
ある。豊かな中低音を使って、決してきらびやかでない、ツボを押さえた鍵盤の押さえ方をする。
#5と#8は疾走感、#6はレイジー、いい味を出している。リズムの山をつかみにくい曲が
多い。 #7は10拍子だ(5拍は「向ヶ丘遊園、向ヶ丘遊園」とカウントするといいのだ)。
#3は 7拍子(カウントは「向ヶ丘遊園裏」がいいかも)。これでノるのはなかなか難しいけど、
なんだかさりげなく上手にやっていて不思議な演奏。
一方、#1は残念ながらシャリコマ迎合曲だし、#2は(3拍子だが)歌謡曲の歌伴みたい。
総じて和音についても、楽曲の計算高さについても、アフタービートの弱さもジャズっぽくない
(帯にRBピアノと書いてあるが何を指しているか分らない)。しかし、逆に新鮮で、何度も
聞き直したくなる魅力がある。ピアニストとして、また 全曲オリジナルのデビュー盤として、
水準は高い。
Phantasmagoria 変幻自在/ Vakeneco(Rasa Point Inc.、2011.1)
ピアノトリオである。2曲のスタンダード以外、オリジナル曲に和風な題目がついている。
ジャズにはよくあることで、 題目は単に符丁。決して邦楽風ではない。おどろおどろしい
ジャケット?これも単にケースのデザインと見た。#1ラテン編曲の小気味よい作品。#2は
懐かしいAOR風。 #3はアルコベースで開始してちょっと思わせぶりなイントロだけど、テーマに
入ると溌剌とした演奏になる。#6"One of Those Things" では、中間派的ピアノも聞かせる。
#7エレピもある。#9はソロでしっとりと。#10は軽くフェイクした"My Favorite Things"。
組曲のような構成が秀逸である。アドリブは流麗であり、ときにパーカッシブでもある。
新人とのことだが、奇抜なバンド名やイラストに頼らずともやっていけるのに。
昨今、雨後の筍のように女性ピアニストが現れたが、単にトリオスタイルで演奏している
だけで、 ジャズと呼べないものもあった(私の独断)。ジャズには強力なリズム感が
必須である。スイングともノリとも黒っぽさとも言う。骨太な田近ピアノは合格である。
Organist/ Kankawa(Boundee Inc.、2010.12)
まだ寒川敏彦と名乗っていたころ、屋外フェスで渡辺貞夫と競演していたのを見たことが
あった。Jimmy Smithの直系で、当時国内オルガニストの第一人者であったが、忽然と
第一線から見かけなくなっていた。ヒップホップグループやDJと異種格闘技戦を繰り広げて
いたのである。 Kankawaさん、ジャズ復帰おかえりなさい。是非、ここらでひと暴れ
してください。
もともとハモンドB3は、tsやgと相性がいいので、ここの演奏スタイルは「当たり」である。
(orgのときは本来bプレーヤーは必要ではないが)意表を突いたbでテーマ、gがちょっと絡む
"Left Alone"。唸り声も臨場感ある。gが半コーラスなのがちょっと欲求不満。"Misty"は
演歌っぽい出だしだけどtsと合せてだんだんドライブしていく。vib やbclが噛み合って
楽しくも黒っぽい"Softly"。デュオの楽しさを満喫できる"Tunisia"と"Satin Doll"。
ts プレーヤーは失礼ながら存じ上げない方だったけど、素直によく歌う人だ。この盤には
バラードにも org がかくも似合うとはいい発見をさせてもらった。 ベテランになると出せる
円熟味、それが共演者に伝播する。
Dreams/ Yukari(Inner Circle Music、2010.10)
在米で活躍するフルーティスト。モダンジャズのイディオムを fl に持ち込むとき、楽器
本来の音色の持つ清楚さとの間でコンフリクトを起こす。従って過去の成功者のいくつかの
演奏スタイルに帰着する(要するに真似になる)恐れがある。例えば、Herbie Mann とか
Eric Dolphy の印象が強烈すぎて、後に続く演奏家は苦労するのではないかと思う。
本録音ではGreg Osby の参加と彼のレーベルからの販売ということで、free がかった演奏と
随所に見えるフリーキートーンからすると、Osbyの影響は大きいと感じる。ビブラートもなく
クール。エスニック調#1で開始して g との絡みを見せる。#6に見えるOsby ts とのハーモニー
(テーマではユニゾンっぽい)にスリルがある。そこはジャズ的だが、fl のリズム感は
全く黒くない。リズム隊はずっと煽り続けているので、対比的に面白い。#5"Porgy" では
g ソロを聞くのにリズム隊には少し黙っててくれと言いたいくらい。ラス曲#9では、雅楽的
匂いも感じられる。freeによくあることで、全体的に分類不明/国籍不明な空気に満ちている。
初めに書いたように、fl 演奏家が自己のスタイルを確立するかどうかにちょっと興味がある。
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