「ラブ・ケミストリー」喜多喜久(2011)


 私の読書地図には「ラブコメ」という分野がない。惚れた腫れたを延々と読むのは煮え湯を飲む
のと同じ苦痛だ。しかし、読んでみたらどんでん返しもあって、意外と楽しめた。先入観はよくない。
 「ノシル基の脱保護はうまくいったか」とか「Organic Letters に投稿して掲載された」とか
「クエンチしてからシリカゲルクロマトグラフィーで精製した」とか、説明なくそう記載する(一般の)
読者を無視した態度は何だ?東大だから許されるのか?高飛車だ。ストーリーには関係ないから構わない
でしょというスタンスは、「チームバチスタ」あたりで市民権を得たのかもしれん。そういえばどちらも
『このミス』デビュー。ということは、一般庶民の知らない世界をちょっと見せるのが、審査員達に
ウケる秘訣なのだな。よし、このコツがわかれば私も3匹目の泥鰌で1200万円を目指してみるか。
ところで喜多さん、「イソプロパノール」は命名法違反です、イソプロピルアルコールが正しい(*)。
 本学の学生には、どちらかというと森見登美彦「四畳半神話大系」(2005)の方が身近に感じる方が
多いかもしれない。キャンパスは決して薔薇色ではない悶々感を、シニカルでシュールな文体で綴る。
ラブラブの人もラブラブに憧れる人も、秋の夜長にそれぞれ相応の読書をお楽しみ下さいませ。

(*)イソプロパンという骨格がない場合、語尾変化 -ol も作ることができない。系統命名では、
2-プロパノール、官能基命名では、イソプロピルアルコール(2単語)。



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