「戦国の長嶋巨人軍」志茂田景樹著(1995)


 野球を最近見なくなった。帰宅してもプロ野球ニュースが終わっているという悲しい現実がある
ことも理由の一つだが、皆さまはいかがでしょうか。1995年頃は、いくら忙しくても興味の方が
勝っていたのではないかと思う。要するに、あれが野球の面白かった最後の世代かと思う。何と
いっても、チョーさん率いる我が読売ジャイアンツは、主将落合、若き4番松井をはじめ、原、
吉村、元木、緒方、不肖一茂、職人川相、デーブ大久保、ピッチャーは槇原、桑田、あぁ、こんな
オールスターズもう作れない。というか、今はスター選手を挙げることすらできない。本書では、
彼らが実名で登場する。「巨人の星」「侍ジャイアンツ」に通ずる親近感とリアリティがある。
 V2を目指す巨人軍の春季キャンプ、自衛隊体験入隊の最中に桶狭間へタイムスリップ。この種の
if戦記の常套手段を、読者に不自然でないように納得させるのが作家の腕の見せ所であるが、
さすが志茂田は口述筆記なだけあって安直だ。チョーさんの無邪気さに頼るのみ:「『しょうがない、
これも俺たちの運命だ。』長嶋は、いたって楽天的である。長嶋の伸び伸びした冴えきった口調に、
どういうものか選手全員が動揺することができなくなった」。リアリティがあるようでまるでない。
完全に吹っ切れている。そして巨人軍は信長軍と野球もするし、何と!戦国の世に野球が普及する。
展開はハチャメチャに楽しい。快進撃(ホントの戦の方)の信長軍、今川、斎藤、比叡山を討ち、
ついに同盟巨人軍を入洛させる。しかし怪しく登場する明智になんの活躍も与えられないまま、
残念ながら小説は未完である。未完とはいえ、本書は永遠に不滅の奇書と言ってよかろう。



  • ブラウザの「戻る」で戻ってください。