「人間臨終図巻」山田風太郎著(1986)


 私は人生五十年と信じ、25歳を境にUターンしてカウントダウン、24、23、22、...2、1と若返る
ことにしていました。今年ついにその最終年齢を迎えてしまう。「人生は長さじゃない、密度だよ」
などとほざいてきたが、これは真理であろうけれども、実際にこの歳になると「ちょっと考え直すか」
と思わなくもない(まわりくどいですねぇ。要するに未練があるわけです。はぃ)。
 あの「○○忍法帖」の山風です。吸壷の術、筒涸らしの術ね。典型的な大衆娯楽小説作家です。
この作者がこんな本も書いていました。15歳で刑死した八百屋お七から100歳以上で大往生した
方まで、色々な死にざまが描いてある。若い方からは無念が滲む。歴史上の人物やら作家やらの
エピソードやトリビアを語る。医学を志した作者だけあって、病の描写がマニアックだ。
 本書はミニ伝記集と位置付けることもできる。私は運良く伊能忠敬にお会いすることができた。
戦前には教科書に載っていたらしい。忠敬は商人の伊能家へ婿養子に入り、かなりの財産を築いて、
49歳で家督を長男に譲り隠居。翌年江戸に出て、西洋暦学・測量の勉強を始める。五十而志学!!!
その歳まで測量とは無関係だったのだ。享年73に至るまで測量人生を全うした。50歳から別人生を
構築できるのか。と、無才の我々を勘違いさせるには充分な内容の1ページ弱だった。
900名1600ページ。様々な人生が濃縮し凝結している。人それぞれの読み方ができる奇妙な図巻。



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