「物理数学の直観的方法」(第二版)長沼伸一郎著(1987,2000)
先進理工のコース分け審査の合格率が全学平均に対して芳しくない。2年次以下は共通クラスだから
採点等の評価はほぼ均質である。従って、本学科が特に平均学力が低いのかという声も聞くが、それは
偏った学生評価である。理由は、化学生物系志望学生の嗜好とカリキュラムのミスマッチであることは
明らかで、このグループは物理数学系科目が不得手という割合が高い。例えば電磁気や力学で難儀する。
バイオを標榜して受験生を集めている以上、このグループにだけ苦難を強いる基礎教育課程は構造欠陥
であり、 学生の不勉強だけを責めるのは気の毒である。しかし、本学の卒業生を名乗るための素養として
電磁気学を学べという理念も理解できる。各人はその置かれた環境において最大限の努力をせねばならない。
本書は理工系の副読本として87年にベストセラーとなり、それ以来根強い人気を誇り、最近ブルー
バックスに収録された。理工初学者以外にも読者が多いと聞く。残念ながら私はこの書を最近知った。
もし私がこの存在を学生時分から知っていたら、現在の姿はもっと変わったものになったかもしれない。
理工系教養課程生にとって必読書に近い。もう読んだという諸君も多いだろう。
電磁気に登場するベクトル rot の意味をここまで噛み砕いて説明した先生はこれまでいなかったし、
線積分もテーラー展開も、こんな風に教えてくれたら理解が深まるのに、という、痒い所に手が届く
説明が満載である。しかも、直観に訴える工夫が見事である。適度にユーモアもある。エントロピーと
熱力学の章も(私は化学者だから)興味深く読んだ。なるほどこういう見方もあるのかと、目から
鱗の落ちる箇所があちこちにあった。大学教員も講議に役立てていることを白状します。
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