「富を『引き寄せる』科学的法則」ウォレス・ワトルズ著(2008,角川文庫)
薮から棒で恐縮だが、近年レポートが書けない学生が増え、留年しがちで問題になっている。
国語の作文の時間が苦手だったという点では私も同類なので、逆恨みかもしれんが、その初等
教育の方法にはもっと工夫があっても良かったのではないかと思っている。欧米では、読書感想
文の時間はこんな風にやると聞いたことがある:「括弧の中の適当な方を選び、次に空欄を埋めよ。
『私は貴方にこの本を読むことを(勧めます/勧めません)。なぜならば________。』」
この課題設定なら作文のきっかけが与えられるので、当時の私のように固まってしまうことはない。
さらに素晴らしいのは、結論を先に述べて後に理由付けするという思考の訓練も兼ねられることである。
さて、本書は著者が没後100年経っているのに今でもよく読まれているという。多くの訳本が
出ており、アマゾンのレビューアーお勧め度はすべて>4である!
題目買いをしてしまった方は多いだろう。富を得ることは良いことだとブチ上げる。清貧が
貴いなどと嘘っぱちは書かない。潔い。「今している仕事を一所懸命にせよ」「前向きになれ」
「効率的に行動せよ」。明快。人生観は同意できる。しかし残念なことに(自称)科学が甚だ可笑しい。
「自然の中にある有機物、無機物はすべて同じものからできていて、それは思考する物質である」
これが基本理念だそうだ。有機・無機化学の教育者にとって、これは聞き捨てならぬ。間違った
仮定に基づく命題は、結論が何であれ偽である。もはや先を読む動機を喪失してしまう。
そして「この考えに反する議論に耳を傾けてはいけない、他の考えを教えている本や雑誌を
読まないようにしましょう」と念を押される。重度のカルト宗教性が認められる。
というわけで、結論が最後に来ましたが、私は皆さんにこの本を読むことを勧めません。
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