「ドグラ・マグラ」 夢野久作(1935)


奇書マニアにとって欠かせない逸品。連続殺のミステリーの範疇だが推理は一切なく幻想小説である。
断続的に変態性欲が描かれ、語り手が幻惑的かつ執拗であり、結局ミステリーの答は暈されたまま。
読後に気が狂ったという話をよく聞く。覚悟しよう。
 目が覚めたら記憶喪失、という「レベル7」「SAW」も使ったモチーフ、ツカミは良好。映画化を意識した
小説というのは昨今では珍しくないが、昭和10年頃という時代を考えれば、当時は斬新であったであろう
(実際に映画化されているようだが)。劇中劇あり、劇中歌ありで、凝り過ぎた構成ではある。現代の
スピード感に慣れている読者なら、冗長と感じる箇所もある。ところで、劇中歌「キチガイ地獄外道祭文」は
冗長か?とんでもない!この七七調、電車中でも、恥ずかしがらずに、朗読してみよ。休符を入れると、
8ビートになり。いつの間にやら、玉置宏。昭和のネタで、恐縮ですが。あらまあ伝染った、困惑千万。
さらにもう一つ禁じ手を教えよう。実は(角川文庫なら)下巻から読むと怪奇趣味にどっぷり浸れますので、
乱歩ファンならこのあたりからかな。でも全部ついて行けることは保証しない。
 九相図(くそうず)。これは仏教画としてよく知られたものであることを最近知った。煩悩を排する
ために敢えて美女が題材に選ばれた。これを凝視したらばネクロフィリアを疑われる。そんな私もガイキチも
実は紙一重。大学の先生もサヴァン症候群も紙一重。精神疾患だらけの現代を夢野は予言していたのか。
私もこれを読んだために気が狂ったのか、読む前からそうだったのか。もはや判別不能。



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