「水鏡推理」松岡圭祐著 (2015、講談社文庫)
「水鏡推理II〜インパクトファクター〜」同 (2016)
「『研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース』は実在する」(はしがき)。
ダン・ブラウンの真似かな。世間が科学者/技術者を見る目はどうやら性悪説に基づくようで、実際に
その手の輩が新聞テレビを賑わすことがあるのは残念ながら事実だ。ところで、お金を取ったらニュースになるが、
拾ったお金を交番に届けても事件にならない。悪行は目立つが、善行は気付かれない。経験的には、理系研究者、
技術者の善人率(?)は、社会全体で較べたら高い方とみている。誰か誤解をといて下さらんか。
化学物質も、公害やら中毒やら悪者ばかりが報道されて、化学分野は人気の面で割りを食っている気がする。
物質文明にどっぷり浸っていると、役に立っている物質に気付かない。空気の有り難みに気付かないのと同じ。
スマホひとつとってみても材料科学の塊だ。化学や科学者を、もっと見直して欲しい。
「水鏡推理」では、オムニバスエピソードを通して黒幕を明らかにしていく。不正の現場が企業だということで、
研究者が悪人だとする描写は許してやろう。「頭の体操」のようなクイズが出てきて、それなりに面白い。
職場のパワハラ発言「○○の分際で...」に対して、登場人物皆が寛容なところにやや違和感がある。霞ヶ関だからね、
魑魅魍魎が跋扈しているのだろう。ついでに言うと、女性でも男性でも下の名前で呼び合うのは、昨今の職場では
ハラスメント扱いになるのだが、ファーストネームで呼ぶことくらいは許容範囲でよいかと個人的には思う。
「水鏡推理II」の副題は、論文書きの立場として気になる単語であって、中で説明されているように、論文誌には
journal impact factor、研究者個人には h-index などというランキングがある。さて、この本、STAP細胞
事件がモロネタであった。不正の現場が独立行政法人の研究所だということで、大学じゃないから、ここでも
研究者が悪人だとする描写はギリギリ許してやる。一話展開型なのでこちらの方が読み応えがある。専門家の
側からみると、ん?というところも散見されるが、科学者でない作家にしてはよく取材していると感心する。
ところで、「化学探偵Mr.キュリー」喜多喜久著(2013)も、捏造・欺瞞ネタが満載であった。大学が舞台である。
途中まで読んだが腹が立ってきて投げ捨てた。理系の作家から裏切られた気分なので、こっちはお薦めしない。
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