「夏と花火と私の死体」乙一著 (2000、集英社文庫)


著者略歴によれば、本作の執筆は16歳であったとのこと。いやはや、早熟なことです。これにより1996年の
ジャンプ文学大賞受賞。1999年久留米高専卒、2002年豊橋技術科学大卒。
伊良湖会議が、昨年今年と本学で開催される。主催する豊橋技科大と電通大はともに「研究大学強化促進事業」
選定校であり、単科大学から選ばれた数少ない「同士」である。本学も高専からの編入を受け入れている。
大学のキャラは似ているわけだが、学生・卒業生のキャラも電通大と似ているかもしれない。
 すみません、そんなことは、乙一を読むのには無駄知識であった。ファンタジックホラーを書ける若手作家として、
もはや紹介不要の地位にある。私にはホロリ感のある「失はれる物語」「平面いぬ。」あたりが良かった。彼の
作風は必ずオチを用意してくれること。読後の満足感があり、読前の期待感がある。そして期待を裏切らない。
 「夏と花火と私の死体」は語り手が屍体である。言うまでもなく、語り手は、自分の役柄としての行動と見た
事象だけを描写する。ところが本書では幽体離脱した魂が語るのだから、何でもアリの千里眼、語り手の視点は
著者の視点でもある。語り手以外の人物の心情吐露まではやりすぎたかな。それから、2歳差にしては妙に
大人びたお兄ちゃんだと思わせてしまうところ、乙一にも未熟な頃があったのかと思う。しかしこの処女作には、
彼がそんな瑣末な欠点を補ってなお余りあるストーリーテラーであることを、十分に予見させるものがある。



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